
コチという魚は釣り好きの人はよく知っていても、一般的にはあまり知られていないようですね。当市場には毎日入荷しているのですが、小売店の店頭には並んでいることは滅多にありません。「メゴチ」という、一見コチの子供のような魚は、「天ぷら種」として馴染み深いですが、これは本家のコチとは全く関係ありません。
コチの需要はもっぱら料理屋さんです。料理人の腕にかかると冬のフグにも匹敵する、「夏の薄造りの王様」に変身します。価格がべらぼうに高いわけではないのですが、すっかり高級魚のイメージが定着したのは何故でしょう?顔つきは決して美男、美女とは言えません。頭は押しつぶされたように上下に平べったく、頬が左右に張り、大きな口は受け口です。体も扁平で尾に行くほど細くなります。ウロコは細かく、体色は住みかの砂泥底色です。おまけに小さい目は上を向いてついていて、何と瞳が丸くないのです!瞳の形は半月形やハート形など様々です。この容貌を見た昔の人たちは、コチを食べると目を患うとか、人の益になることは何もないなどという偏見を抱いて、すこぶる評価の低い魚でした。
しかし、お隣中国の明代の書物には、「コチには毒がなく、人体を益する魚薬である」とされています。日本でも江戸時代には、コイ、スズキに次ぐ「夏の酒の肴の逸品」という高評価を得るに至りました。「鯒(こち)の顔 器量悪くして うまかりし」(草間時彦)大きなお世話だ!と、コチはきっと怒っているかもしれません。単にコチというのは別名で、標準和名は最近になって付けられたものですから、名前の由来をたどるのは勿論コチです。これもいくつか説があります。神官が持つ「しゃく・こつ」に体系が似ていることから付いた、またもっと単純に骨が硬いことからコツ(骨)、いずれもそれが「コチ」に変化したというものです。