ある菓子の製造小売業の興味深い活動についてお話ししよう。
それは、日々の点灯でのお客さんとのやりとりを所定の用紙に書き込んで報告するというものだ。その用紙には日時、天気、年代、どんな服装だったかなどの記入欄があり、店側が行った接客とそれに対してお客さんがとった言動を記入するようになっている。たとえば、「ご自宅用のお包みでよろしいでしょうか?」と聞いたところ、「ちょっと内祝いに。一つずつ渡すんです」と答えた、次にこう言ったらこういう反応が返ってきたなどと記入していく。最後にはやりとり全体を振り返り、そこでの気づきを記入するようになっている。かなり細かい内容であるため、店側の負担は少なくないだろう。しかし、極めて重要な活動である。
その理由の一つは、こういう活動があることで、店頭スタッフの注意が自然とお客の言動に向くことだ。それには単に注意深くなるだけでなく、こういうとこういう反応が返ってくるだろう、今のお客さんはこう感じているのではないかなど、お客さんの心に思いをはせることにつながる。マニュアル化が進んだ弊害なのか、昨今、お客さんの心を慮ることができる店が少ないと感じる。しかし今日お客さんが好きになる店とは、自分のことをおもんぱかってくれる店なのだ。こういう活動を通じてそれを自然とできるようになれば、店の業績を上げることにつながるのである。また、こういう体験と振り返りが積み重なっていくことで、こういうときにはこうすれば喜ばれるこういう方はこうしてもらいたんだなと、お客さんに喜ばれるための知恵が増えていく。それを全社で共有することで、知恵の量は、個々の経験で可能なレベルを大きく上回っていく。それ会社全体の力となり、この記録そのものも貴重な経営資源となる。お客さんの心をおもんぱかれる会社、ひいてはファンを増やせる会社になるための、地道な、しかし着実な方法なのである。