夏バテ知らずの魚たち

コラム
2024年07月17日


夏季は水温が高く透明度は低下する一方で、魚たちは人間の夏バテとは逆に食欲が旺盛になる。これはおそらく、秋や冬の厳しい季節に備え、体力を増強する自然の知恵なのだろう。

 古人が「夏のスズキは絵に描いてでも食え」と語ったのは、その油が最ものる旬の時期であり、冬になると「枯れスズキ」になるからだ。人間は文明生活の中で冷房に慣れ、その温度差や暑さから食欲不振になることが多いが、それに対して魚たちは暑さに打ち勝ち、活動的に過ごしている。彼らの生き方から学ぶことも多いのではないか。生存競争が厳しい自然の中でも、体力を維持するために、エネルギーを増やす戦略を採用する魚は多い。

 春は生命の誕生の季節で、自然界の中での生命の誕生は一斉に始まると言っても過言ではない。桜前線が北上すると同時に、日本全国で花見のシーズンが始まる。その頃、トンボやチョウ、小鳥たちは活動を開始し、海中でも同様に、水温が上昇する3、4月頃から魚たちの産卵シーズンが始まる。タコやイカも無数の卵を孵化し始める。

桜が咲く頃には、マダイはサクラダイと呼ばれ、初夏にはムギワラダイと名付けられる。また、メバルは春のタケノコの季節には脂肪がついてタケノコメバルとも呼ばれる。魚は適水温の範囲内であれば、水温が上昇するにつれて活動も活発になる。水温1℃の差は、魚の生理活動においては人間の5℃の変化と同じともされる。春の静かな海から夏の潮流が激しくなるとき、潮流の動きが海中の酸素を豊富にすることで、魚が元気になる。

これはプランクトンが流れてきたり、小動物が活発に動き出したりすることと密接に関連している。海の中で最も多いイワシは海の米と言われ、その次に多いのが麦のようなアジ、サバで、これらも夏には活発にエサを食べて活動する。そして、彼らの後ろにはカツオ、ブリ、カンパチといった中距離ランナーが控えており、そのさらに後ろにはマラソンランナーのサメやマグロの群れがいる。魚たちはこのような弱肉強食の厳しい生存競争の中で、自己を保つために懸命に努力を続けているのである。

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